【ボッチャ連載企画第1弾:後編】リオから東京へ。進化したケースとボッチャスポーツ発展の“今”
東京大会、新たな専用ケースを“刃”から開発。
スーツケース型から、アタッシュ型に。試合球を18個収納する専用ケース
リオ大会での選手団5名に対して、東京大会はホスト国ということもあり、10名に増員。
一つのケースに選手全員の使用球をまとめて持ち運んでいた前大会の形では、試合時にボールを選り分けるのも大変で時間をロスしてしまう、ということで、「ペアでもチームでも簡単に持ち運べる」ケースを東京大会では開発することになりました。
内装ウレタンのカッティングも、今回は刃から特注でつくり、より型くずれを防ぐ形に改良。
また、アタッシュ型のケースになったことで、「コートまで持ち込める」ケースとして、プロテクション以上のアドバンテージが生まれたとのこと。
試合開始の直前までボールを保護出来る安心感とともに、応援され、支えられている感じがすると、選手団の皆さんの力になっていたそうです。
海外の選手からも、「日本の選手は良いね!」とボールケースが注目を集め、声をかけられたという話も聞きました。
よりサポート体制を強化して臨んだ東京大会では、個人戦初の金メダルに始まり、ペア戦、団体戦でもそれぞれ、メダルを獲得。
大会のクライマックスを飾る団体戦も、選手の気迫のこもった投球ぶりに、PROTEXスタッフも最後まで息を呑んで熱中して見守っていました。
海外遠征用に、FPZキャリー等も提供。トレーナー、介助スタッフ達からも、「あのケースはロストしないし、(ものを)入れやすい」という声を頂戴しています。
「平常心を技術でまかなう」日本の技術
「大会時は、懸念する、気にする要素をいかに減らせるか」。
これが技術、メンタル両方の面でパフォーマンスにつながってくるというのは、PROTEXがサポートしている数多くのプロアスリートから、口を揃えて聞く話でもあります。
ボッチャにおいても、「ボールが大事に運ばれている」ことが、出来る限りの平常心で試合に臨む上で役立っているというフィードバックを、選手の方々から頂いています。
また、ここまで用具にこだわっている国は、少なくともボッチャでは、他では見られないとのこと。
結果的に選手がメンタル面で成熟し、粘り強さが伴い、アスリートとしての完成度が高くなっているという手応えとともに、選手一丸となって国際大会に臨めているのだそうです。
ボッチャ発展の大きな分岐点となった、ケース開発への着想。
画像出典:一般社団法人 日本ボッチャ協会(japan-boccia.com)
用具が環境コンディションを左右されない様にするには、元々、「コンディションに左右されにくいボールを開発する」という選択肢もあった、とのこと。
実際に、そうした特性を持つ素材を用いたボールから開発することは、技術的には可能です。
しかし、ボール1個あたりの製造コストも高く、素材の性質から、それなりの重量を伴うボールになる。
重量を伴えば、一定以上の握力が求められ、扱える選手が限られてしまうことにも繋がります。
これでは、「誰でも別け隔てなく楽しめる」ボッチャというスポーツ本来の在り方からも、かけ離れていってしまう―。
ボールを放る選手、転がす選手、器具で助走をつける選手。
ボッチャの試合を観ると、選手毎に異なるそのボールづかいに、驚かされます。
こうした選手毎のフォームのユニークさも、ボッチャの見どころの一つ。
さらに、年々変わっていく、国際大会のレギュレーションの面でも、ボール開発は大きなリスクを伴う選択肢になります。
リオ大会の頃は、重さと周径の規定はあれど、ボールに使われる素材の制限は無かったところから、東京大会の頃には、ボールの「転がり度合い」のチェックが入る様に。
これは端的に言ってしまえば、カーリングのように、「転がらずに滑る」様なボールは認められない、というものです。
規定が変われば、せっかく開発したボールそのものが使えなくなってしまう、ということも十分に考えられる話でした。
「スポーツへの参加、発展の貢献の仕方には、このような形もあるのか」
ケース開発に関わった渋谷氏が大学で講義を行う際に、ボールケースを学生の方々に見せたところ、スポーツが苦手な学生でも、「こんな関わり方があるなら、スポーツをやりたくなりました」という声をもらったこともあるのだそうです。
PROTEXスタッフとしても、なんとも喜ばしいエピソードでした。
拡がり続けるボッチャの輪
画像出典:一般社団法人 日本ボッチャ協会(japan-boccia.com)
地域のクラブチームや体験会、学校対抗の全国ボッチャ選抜甲子園 etc…
ここ10年近くの中で、ボッチャの裾野は大きく拡がっていると言えます。
その一因として、「ボッチャはパラスポーツしかない、独自のスポーツ。だからこその良さがある。」とのこと。
どういうことかと目を丸くしてより詳しく話を伺うと、例えば「車いすバスケットボール」のように「バスケットボール」は知っているという状況、ボッチャはゼロからの土壌のため、人々の知識のスタートラインが違います。
ですが、その分、初めて、見て、触れて、体験する人が多いため面白さや魅力が浸透してきていて、普及につながっているのだと思います。
「SNSでボッチャを検索してもらえると、障害の有無に関わらない、様々な大会の情報がたくさん出てきます」
ボッチャに興味を持たれたならばぜひ、身近に参加出来るイベントが無いか、探してみてもらえたら嬉しく思います。
(第2回に続く)
▼ボッチャについて、より詳しく知りたい方はこちら
ボッチャについて(日本ボッチャ協会公式サイト) >>
みんなでボッチャ1万人プロジェクト公式サイト >>
写真左より 新井氏(日本ボッチャ協会強化本部長)、村上氏(日本ボッチャ協会普及振興部長)、渋谷氏(株式会社スポーツセンシング スポーツアナリスト)
▼第2弾インタビューはこちら
▼第3弾インタビューも公開